【長編】ホタルの住む森
銀糸の午後 紫陽花の夢…11年後
「紫陽花を見ると初恋の男の子を思い出すの」
赤紫色の傘に水滴を弾きながら茜は振り返って言った。
「へえ…」
僕は少しムッとして茜を見つめる。
「茜の初恋は右京じゃなかったの?
けっこう気が多いのかな?」
わざと意地悪に言ってみるのは、少し困った君の顔が見たいから。
茜はくすくす笑って僕の黒い傘に自分の傘をぶつけてきた。
銀の粒が飛び散るそれはパラパラと紫陽花にかかり、一層その色を鮮やかに増してゆく。
「私が生きているのは、その男の子のお陰だから…」