【長編】ホタルの住む森
茜が逝ってから晃は、茜との約束を果たす為、医師になる為必死に努力した。
慣れない育児と勉強を両立するのは容易ではなかったが、晃はできる限りの愛情を暁に注いだ。
それでも、ひとりで子育てをしながら医師になるのは簡単ではなかった。
もともと優秀な上に努力家の晃は、アメリカの大学を20歳で既に卒業していた為、異例とも言われるスピードで医師国家試験認定を受けたのだが、それでも晃が医師として父の病院で働けるようになるまでの間、協力者が必要だった。
そんな晃を支えたいと蒼は自ら暁を預かる事を申し出てくれた。
晃としては身を切られる思いだったが、それでも耐えられたのは茜の遺言でもある『医師になる』事を諦めるわけにはいかなかったからだった。
茜は出産の間際に蒼に一通の手紙に最後の願いを託していた。
彼女が出来なかった『母親の愛情を姉である蒼が教えてあげて欲しい』という茜の想いを蒼は遺言としてだけでなく、暁の伯母として叶えたいと思っていた。