【長編】ホタルの住む森
【短】しだれ桜
満開の桜の下、晃は暁と一緒に土手沿いの遊歩道を歩いている。
4月で暁は16才になった。
花吹雪の舞い踊る川縁は、小春日和のあたたかな風と日差しが心地よい。
二人は、ゆっくりと桜を堪能し、やがて一本の桜の下に立った。
大きな枝垂桜の木だった。
太い幹は大人が二人でやっと抱えられるほどで、悠然と伸びる枝は、ゆったりと重そうにたくさんの花をつけ垂れ下がっている。
薄い桜の花は、風が吹くたびにゆれる枝から、ハラハラと雪のように降ってくる。
「暁、覚えてるか?この桜」
ニヤニヤ笑いながら晃が訊いた。
かわいかったな~などと、思い出に浸っている父親に、暁は後から回し蹴りを喰らわせたい衝動を抑えながら、苦虫を潰したような顔で憎々しげに答えた。
「…忘れるわけねえだろ?」