【長編】ホタルの住む森
10年前、暁6才の頃、この桜の下で彼は父に覚えたての知識を誇らしげに披露していた。
「ぼくしってるよ、これ、なだれ桜っていうんだよね?」
(すごいでしょ?ぼくしってるんだよ)
と、誇らしげな暁。
かわいらしい間違いに晃はクスクスと笑いながら、『しだれ桜だよ』と優しく訂正してやった。
「…すだれざくら?」
(あれ?まちがっちゃったかな?)
少しがっかりする暁。
――ぷっ、くくく…思わず吹き出す晃。
暁は何故笑われたのか分からずに、キョトンとしている。
「ちがうよ、暁。し~だ~れ~桜だよ」
あまりの可愛らしさに、笑いを堪えながら発音を強調して教えてやるが…。
「わかった、よ~だ~れ~桜だね」
ニッコリと自信たっぷりに微笑む暁の姿は、晃のツボに見事にヒットした。
…よっ…ヨダレ?
―――ぶぶっ☆あーっはははは……
腹を抱えて笑いこける父親に暁は真っ赤になって怒った。
「あきらくんの、ばか―!!」
この後晃は暁のご機嫌をとるために、おもちゃ屋へ連れて行かれたとか、行かなかったとか・・・