【長編】ホタルの住む森
【中】きみの瞳に映るもの
16年後の夜空
この世の全てを呑み込む闇が広がる。
月も星も見えない夜。
こんな日はいつも以上に独りの夜が寂しくなる。
晃(あきら)は無意識に窓辺に寄り添うと自分を抱きしめるように腕を組んだ。
いつも茜(あかね)がそうしていたように、何かを語りかけるように空を見上げる。
何も映さない闇夜。
その中に唯一つ淡く輝く星が、とても寂しげに見えた。
「ねぇ、茜。夜の闇にたった一つ僕の為に光る星…。
あれは君なんだろう?
今夜の空はまるで僕がプロポーズした夜のようだね」
こうして一日の終わりに夜空を見上げ、ベッドサイドで微笑む妻に向かって語りかけるのが、いつの頃からか晃の習慣となっていた。
「君にプロポーズをしたあの夜の光景を僕は生涯忘れないよ」
瞳を閉じれば目の前には、闇夜の森に舞い踊った星屑の群れが広がる。
そして、淡い光の中で微笑んだ愛しい女性(ひと)が蘇る。
手を伸ばせば消えてしまう儚い幻。
抱きしめたくても、口づけたくても、彼女は永遠の時の中にいる。
伸ばしかけた手をグッと握り締めると、二人が出逢った運命の夜へと想いを馳せた。