【長編】ホタルの住む森
朝の光が射し込む眩しさに、陽歌は目を覚ました。
あぁ、またいつもの夢だ。
ゆっくりと体を起こし、窓を開けると、街は街路樹が新緑に色付き始めていた。
緑が風にゆれ、太陽の煌きを受けるのを見つめながら、陽歌は夢の内容を思い出していた。
いつの頃からか良く夢に見るようになった風景には、いつも決まって一人の男性が微笑んでいるのだ。
あの夢の丘は一体、どこにあるんだろう?
夢の中の出来事を思い起こしてみるが、いつもの如く目覚めると彼の顔はハッキリと覚えていない。
思い出そうとすればするほど、霞が掛かったように、記憶に残った僅かな面影すら薄らいでいく。
唇は「あいしている」と動いているのに…彼の声はいつも風に掻き消えてしまう。
それでも決して忘れることが無いのは、彼がいつも太陽のように優しく微笑んでいる事だけ。