【長編】ホタルの住む森

夢の中では何度も唇を交わし肌も合わせているのに

その温もりも腕の強さも、確かに体が覚えているのに

毎晩夢に見ながらも、陽歌にはそれが誰だかどうしても解らなかった。


あなたは、だれ?


いつの間にか真剣に思い悩んでいる自分に思わず苦笑が漏れる。

夢の中の男性に恋をして、現実の恋が出来ないなんて、誰が聞いてもおかしいと言うだろう。

「いいかげんにケジメを付けなくちゃ」と、心に思ったことを無意識に言葉に出した自分に驚き、大きな溜息が出た。

誕生日の今日、29歳を迎えるというのに、夢に恋をして結婚はおろか恋をする事すら躊躇っている。

いい加減自分にケジメをつけなければいけないと、理性ではそう思っているのに、気持ちとは裏腹に、夢への想いを捨てきれないでいる。


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