【長編】ホタルの住む森
「毎年の事だけど緊張してるんじゃないか? ま、俺に任せとけ。手配のほうよろしく頼むな?」
拓巳は綺麗にウィンクを決めると、陽歌の肩に両手を置き、正面から真っ直ぐに瞳を捉えて見つめた。
特別な感情が無くても思わずドキッとしてしまうほど、整った顔だ。
彼が修学旅行の添乗を担当すると女子学生が大騒ぎになるだろうと、10日後の事を考えて益々気が重くなった。
「な、何よ? 重いじゃない」
「何? 照れてんの? かーわいい」
「ふざけないでよ。でっかいくせに寄り掛からないで。
身長が縮んだら拓巳を恨むわよ」
一瞬胸が高鳴ったのを悟られたようで、気恥ずかしくなり、誤魔化すように手を払いのけた。
「つめてーな。陽歌ちゃん。俺の気持ち知ってんだろ?」
拗ねてみせる仕草も、彼に魅力を感じる女性なら母性本能を擽られ、簡単に堕ちてしまうのだろう。
自分の魅力を知っていて最大限に利用できる計算高さには、流石と舌を巻く思いだ。
だが、そんな事にもすっかり慣れた陽歌にとっては、まったく効果はなかった。