【長編】ホタルの住む森


唇に温かいものが触れる。

緊張にビクリと肩が跳ねた。


「絶対お前を手に入れてやるから、覚悟しとけよ」

唇に触れたのは拓巳の人差し指だった。

そのまま唇をなぞりながら、まるで誓いをたてるように甘く囁く。

流石の陽歌もこの状況には、心臓がバクバクと耳元で鳴って恥ずかしさに顔から火を噴きそうだった。

誰も見ていないとはいえ、いつ誰が来るか解らないオフィスだ。

こんなところを見られたら、ついに拓巳の6年越しの恋が叶ったと、たちまち寿退社の噂が立つだろう。

冗談じゃないと、あわてて離れようとしたが、拓巳は更に腕に力を入れて唇を近づけた。


「夢の中の男なんて、こんな風に抱きしめたりしてくれねえだろうが?
抱いてもくれない。
キスもしてくれない。
夢で笑ってるだけの男なんて俺が忘れさせてやるよ」


そう言うと拓巳は唇を重ねた。

陽歌との間には、それまで唇をなぞっていた人差し指が挟まれたまま…。

それが強引なようであくまでも陽歌の気持ちを優先する、拓巳の優しさだった。


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