【長編】ホタルの住む森
どこの誰かも分からない、そもそも実在する場所かも、存在する人物かすら分からない男性を一途に思い続けて10年。
日ごとに鮮明になる夢。
陽歌の中で想いは益々深くなっていく。
それと同時に言い知れない複雑な気持ちがこみ上げてくる。
何か大事なことを忘れているような焦り。
とても大切なものを失くしたような喪失感。
そして…
切ないまでに迫ってくる思慕。
こみ上げてくる感情に押し潰されそうになる。
これまでは漠然としていた思いが、今までに無いほど強くなっていく。
彼に会いたい…。
あの丘へ還りたい…。
一度も会ったことが無く、何処かもわからない場所。
それなのに、何かに駆り立てられるように、行かなければならないと感じていた。
陽歌は肌で感じ始めていた。
『その時』が刻々と迫っていることを…。