【長編】ホタルの住む森
添乗から帰ってきてから3日後
陽歌は亜里沙と昼休みに近くのホテルのランチバイキングに来ていた。
「あれから拓巳とはどうなってるの?」
「…どうなってるって、あなたが拓巳に発破をかけたんでしょう?
拓巳が突然態度を変えてあんなに真剣に告白するなんてどう考えてもおかしいもの」
「アドバイスをしただけよ。
陽歌も29歳になったんだから、そろそろ本気で結婚も考えないとね?
いつまでも夢に縛られていたらおばあちゃんになっちゃうよ?」
大きな目を更に大きくしてハニーブラウンのふわふわした髪を揺らしてテーブルの向こうから身を乗り出してくる。
拓巳が突然真剣な告白をして来たのには、亜里沙の入れ知恵があったのは明白で、あんな事がなければ、多分先日の添乗でも、あんなにギクシャクすることはなかっただろうと思う。
いつまでも実在するかどうかも分からない夢の男性を想い続けている自分を心配してくれるのはありがたいのだが、だからと言って無理やりにでも拓巳と付き合わせようとする、おせっかいな行動が、今度ばかりは恨めしい気分になった。
「どうって…どうもないよ?」
心が乱れたなどと言えば、亜里沙を喜ばせるだけだ。
それはダイレクトに拓巳に伝わり、とんでもないことになるだろう。
亜里沙には悪いと思うが、今回ばかりは警戒して本音は言えないと思った。