【長編】ホタルの住む森
両親を亡くした時、陽歌は自分が世の中に一人ぼっちになったと思っていた。
自分を心配してくれる人も、自分を抱きしめてくれる腕も、全てを失ってしまったと心を閉ざしていた。
だけど、あのときの孤独を知っているからこそ、亜里沙の心遣いがこんなにもうれしいのだと、今なら解る。
心を満たす感謝の気持ち。
誰かに想ってもらえることの喜び。
自分は決して一人ぼっちではないのだと嬉しさが込み上げて来る。
ゆっくりと瞳を開くと、目の前には、眉間に眉を寄せ真剣に陽歌を見つめる亜里沙の顔があった。
その表情は、心配しているようにも、泣きそうにも見える。
陽歌は静かに微笑んで、素直な気持ちを告げた。
「ありがとう亜里沙、心配してくれて。
…私、拓巳のこと少しずつ考えてみる」
「本当?」と亜里沙が瞳を輝かす。
彼女の表情に複雑な思いを抱えながらも「うん」と頷き微笑み返す。
「まだ、自分の気持ちに整理がついてないから、すぐには無理だけど、でも少しずつ変わっていけると思うわ。
…でも亜里沙…あなたは…」
最後まで聞かずに「よかったぁ」と心からの笑みで安堵する亜里沙に、それ以上何も言えなくなった陽歌は、先にケーキバイキングへと向かった彼女の後姿を複雑な気持ちで見送り呟いた。
「亜里沙…あなたは…本当にそれでいいの?」