【長編】ホタルの住む森
その時、窓に小さな雨粒が落ち始めた。
ついに梅雨の空が耐え切れなくなって涙を流し始めたのだ。
「あー、降って来たなぁ。
俺、ちょっとあの人に声をかけてくる。
雨の中ずっとあの調子で立ち尽くしてたら絶対に風邪を引くからな」
暁が外へ出て行くのを、晃は窓辺に立って見ていた。
その女性は確かに泣いていた。
だが、その涙が悲しみの涙ではないと、晃は気付いていた。
晃には彼女がとても嬉しそうに見えたのだ。
息子が女性に声をかけるのを見守りながら、晃は言葉では形容し難い不思議な感覚に包まれていた。
いつもと同じ日常なのに何かが違うような…。
当たり前の風景の中に見たことの無い花を見つけたような…。
そんな感じだった。