【長編】ホタルの住む森



「茜…君なのか?」



震える腕で晃は陽歌を抱きしめていた。

その瞬間、陽歌の中から堰を切って何かが溢れ出した。


濁流のように流れ出す晃と過ごした記憶。

胸を引き裂かれるような悲しみ。

溢れるほどの愛しさ。

自分のものではない感情の波にさらわれて、陽歌は混乱していた。

「待っていたよ。…君が還ってくる日をずっと」

晃は陽歌を引き寄せ、静かに口づけた。


唇に触れた体温。

柔らかな感触。

一瞬頬を掠めた髪の柔らかさ。

そして懐かしい香り…。


何もかもが大好きだった。

太陽のように温かくて、優しい、陽だまりのような人…。

晃…逢いたかったよ…。


陽歌の中で誰かが微笑んだ。



< 269 / 441 >

この作品をシェア

pagetop