【長編】ホタルの住む森
「茜…君なのか?」
震える腕で晃は陽歌を抱きしめていた。
その瞬間、陽歌の中から堰を切って何かが溢れ出した。
濁流のように流れ出す晃と過ごした記憶。
胸を引き裂かれるような悲しみ。
溢れるほどの愛しさ。
自分のものではない感情の波にさらわれて、陽歌は混乱していた。
「待っていたよ。…君が還ってくる日をずっと」
晃は陽歌を引き寄せ、静かに口づけた。
唇に触れた体温。
柔らかな感触。
一瞬頬を掠めた髪の柔らかさ。
そして懐かしい香り…。
何もかもが大好きだった。
太陽のように温かくて、優しい、陽だまりのような人…。
晃…逢いたかったよ…。
陽歌の中で誰かが微笑んだ。