【長編】ホタルの住む森
…ごめん、陽歌
皺枯れた声を絞り出し、それだけ言うと、拓巳はいきなり自分の拳を壁に叩き付け、その場に崩れるように座り込んだ。
立てた膝に額を押し付け、両手で頭を抱え込むと、微動だにしなくなった。
肩を落とす痛々しい姿を見つめ、陽歌は亜里沙の言葉を思い出していた。
『拓巳はね、陽歌のこと入社した時から本気で好きだったんだよ。
陽歌は分かっていると思ってたのに…罪作りね』
拓巳の優しさに甘えていた。
唇の間に挟んだ一本の指、あれが彼の限界だったのだ。
『そろそろ拓巳だって限界だよ』
亜里沙の言葉が胸に痛い。
拓巳を追い詰めたのは自分だと痛感した陽歌は、これ以上咎める気持ちにはなれなかった。