【長編】ホタルの住む森
「…拓巳、顔を上げて。病院へ行こうよ。
壁にヒビが入るくらいの力で殴るなんて…バカね」
「…陽歌…俺、どうかしてた。お前が夢の男に会えたんだって思ったら、すげぇショックで…。
しかもお前は相手を確かめもせず無防備にドアを開けた。
『晃先生』ってその男だろ?
知り合ったばかりの男を信頼しきっているお前を見たら…もう何が何だか解らなくなったんだ。
…本当に…ゴメン」
俯いたまま震える声で詫びる拓巳に、陽歌はもう一度顔を上げるように頼んだ。
「…病院へ一緒に行くって約束するなら今回だけ許してあげるわ」
許してもらえると思っていなかった拓巳は、思わず驚いて顔を上げた。目には薄っすらと涙が滲んでいる。
いつもの自信はどこへやら、情けない顔で放心する拓巳を正気に戻す為、陽歌はビシッと額を弾いた。
「イテッ」と顔を顰める拓巳に拳を突き出すと陽歌は鮮やかな笑みで言った。
「今度こんなことしたら原型が無くなるまで殴るからね」