【長編】ホタルの住む森
二人は少し早い夕食をとりつつ他愛の無い会話を楽しんだ。
幸江は陽歌が退院した後、暫くして結婚し、翌年の3月に出産もしたらしい。
娘が二人いて長女は今年高校生になったと楽しそうに話した。
当時と何も変わらない様に見えるが、16年の年月は彼女をお姉さんからお母さんに変えていた。
「高校生の娘さんがいるの? そんな風には見えないわ」
「そう? ウフフッ私もまだまだ若いってことね?」
幸江は嬉しそうにパスタを口に運ぶ。陽歌もピラフを食べながら微笑んだ。
「そうそう、あの頃あなたと仲の良かった妊婦さんの子どもと同じ学校になったのよ」
「あの人の? 彼女はお元気なんですか?」
陽歌が入院していた頃、一人の妊婦と仲良くなった。
だが手術のあと、高熱であの頃の記憶の一部が無い陽歌は、彼女の事を随分長い間忘れていた。
数年前から少しずつ彼女の事を思い出すようになったのだが、名前だけはどうしても思い出すことが出来ずにいたのだ。
幸江なら彼女の事を知っているのではないかと思った陽歌は、タイミングを見て彼女の名前や住所を教えてもらいたいと思っていたのだ。