【長編】ホタルの住む森
彼女は小児病棟で子どもに絵本を読み聞かせるボランティアをしていた。
両親を無くした陽歌と同じ境遇にあり、傷ついた陽歌を気遣ってくれて、週に一度の検診のたびに顔を出してくれた。
「あの頃は子どもだったから良く分からなかったけど、今思うと彼女は検診の回数は普通の出産より頻繁だったと思うの。
きっと出産が大変だったんじゃないかしら」
陽歌が彼女の事を思い出した切っ掛けは、妊娠中の友人のおなかを触ったことだった。
彼女は少しずつ膨らむおなかをいつも陽歌に触らせてくれていたのだ。
両親と共に死にたかったと絶望する陽歌に、命の尊さと両親の愛情を必死に伝えようとしてくれていたのだと思う。
彼女に会うことが出来たらあの時のお礼がしたいと思っていた。
そして、長い間彼女の事を思い出せなかったことを詫びたかった。