【長編】ホタルの住む森

「…伯母さんは陽歌ちゃんに彼女の死を伝えなかったのね」

「…何も聞いていませんでした。私、何年も彼女の事を忘れてしまっていたんです」

「目の手術の後の高熱が原因?」

「はい。今でもあの頃の記憶が曖昧な部分があります」

幸江は「そうなの」と言ったきり黙り込んでしまった。

何かを深く考え込んでいて、話すべきか迷っているようだった。

「彼女は出産して幸せになっていると思ってました。
ずっと闇の中にいた私を彼女は救ってくれた。
本当の姉のように色んな事を教えてもらったし、大人になってからも彼女の言葉には随分救われてきました。
目が治ったらあの人の顔を見るのが、あの頃の私の夢だったんです。
彼女が亡くなっているというのならお墓参りがしたい。写真でもいいからひと目彼女に会いたいんです。
彼女の家族の方は? せめてお礼が言いたいんです。教えてください」

「彼女に感謝しているのね。
…実はね、私は分娩室へ向かう彼女と会っているの。
その時も彼女はあなたの事を気遣っていた。
最後の言葉を私は今でも忘れないわ」

「彼女は何を言っていたんですか?」


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