【長編】ホタルの住む森
遺言
「それって本当に茜なのか?」
右京が搾り出すように言った。
リビングのソファーに深く座り、右手を肘掛に置き左手はしっかりと蒼の手を包んでいる。
蒼は隣で青ざめた顔をして空(くう)を見つめたまま、何かを深く考え込んでいた。
「おかしくないか?
その如月さんが茜だとしたら、生まれ変わりにしては年齢的に合わないだろう?」
「そうなんだ、彼女は見たところ20代後半だ。どう考えても茜の生まれ変わりとは考えられない」
「茜が入院していた頃に知り合って、色々おまえたちの事聞いていたんじゃないのか?」
「いや、それでは茜と僕しか知らない記憶を知っていた事の説明がつかないんだ」
「茜と接点の無い女性だとしたら彼女はどうして茜の記憶をもっているんだ?」
「それがわからないから頭を悩ませているんだよ」