【長編】ホタルの住む森
右京が溜息をつきソファーに沈み込むようにして、座りなおす。
隣に座っていた蒼が不意に立ち上がって、「ちょっと待ってて」と言うと部屋を出て行ってしまった。
静かな室内に時計の音だけがやたらと大きく響く。
蒼が戻るのを待つ間、二人はそれぞれに思いをめぐらせていた。
5分ほどして蒼が戻ってきた。
手には少し色あせた桜色の封筒を持っており、その目は泣いた後のように赤く潤んでいた。
手にした2通の封書の内、1通は既に封が開けてあり、もう1通が未開封になっている。
蒼は何も言わす開封済みの封筒を差し出した。
晃は震える手でそれを受け取った。
懐かしい茜の文字が現れる。
その内容の切なさに、晃はこみ上げて来る涙を抑えることが出来なかった。