【長編】ホタルの住む森
拓巳が大きな溜息を付き、天を仰ぐように呟いた。
「すげえ人だな…」
「え?」
「自分の命の期限を知りながらも尚、今ある苦しみが未来の幸せの為だと言い切れるなんて…。
それまでの人生にどんなに辛い事があったかは分からないが、彼女が平坦な道を歩んできたとは思えないよな。
人には言えない苦しみを沢山抱えていたと思う。そこまで言い切れるようになるまでには、相当辛い思いをしてきたはずだ。
それなのに、苦しみを人生における必然だと言い切り、自分を幸せだと言える彼女って…本当に凄い人だと思う」
「必然…茜さんの…幸せ?」
拓巳の言葉の中に、陽歌は何かを思い出しそうな不思議な感覚を感じていた。
必死に考えてみるが、それは拓巳の提案によって打ち切られてしまった。