【長編】ホタルの住む森
恋煩い
「晃君、私を彼女に会わせて欲しいの」
涙に濡れた瞳を真っ直ぐに晃に向け蒼は言った。
「僕も蒼に会って欲しいと思っていたんだ。明日、彼女に会ってくれる?」
「ええ、私なら彼女の中に何故茜の記憶があるのか、その理由が解るかもしれない。彼女に会って確かめたい事があるの」
蒼の言葉に何か確信めいたものを感じた晃は黙って頷いた。
翌朝、晃は携帯を見つめては躊躇い閉じるという行動を、もう数十回も繰り返していた。
特別な感情のない女性に電話を掛けるのは簡単だが、彼女は別だった。
ドキドキと胸が騒いで、まるで恋をしているように錯覚さえする。
全ては彼女の中の茜の記憶のせいだと、自分に言い聞かせ、ようやく思い切って発信ボタンを押す。
電話を思い立ってから既に一時間半が経過していた。