【長編】ホタルの住む森

何度目のコールかで電話が繋がった。

『もしもし…』

陽歌が出るものと思っていた晃は、聞き覚えのない男性の声に驚いて、番号を間違えたのだと思った。

「すみません。番号を間違えたようで…」

『間違っていませんよ。高端先生。陽歌ならここにいます』

宿泊したホテルに朝から男がいるという事は、夜を共に過ごしたという事だろう。

相手は恋人だろうかと考えると、胸に嫌な締め付けを感じた。

『陽歌は昨夜から体調が優れなくて、申し訳ないのですが今日はこのまま連れて帰ることにします。
先生と約束をしていたらしいですけど、体調をみて、またこちらから連絡させますので、今日のところはご遠慮願えますか』

「……わかりました。彼女は大丈夫ですか?
昨日も体調が悪そうでしたし、念のため診察をしたほうが良いでしょう。僕がそちらへ伺いましょうか?」

『いや、けっこうです。今日のところは失礼します』

丁寧な話し方だが、有無を言わさぬ強い口調にそれ以上食い下がることはできなかった。


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