【長編】ホタルの住む森
伯母の涙
さざめく波の音と潮の香りを含んだ風が懐かしい。
陽歌の伯母の家は海辺の小さな町で民宿を営んでいる。
突然の訪問を彼女はとても喜んだ。 拓巳と一緒の陽歌を見て結婚の報告と勘違いしたのだ。
嬉しそうな伯母になかなか本当のことを言い出せず、肝心の茜の手紙の件もなかなか話す切っ掛けが無い。
泊まっていくよう伯母が熱心に勧めるので、今夜は民宿で泊まり、夕食の時に手紙の事を切り出すことにした。
だが久しぶりに会った為、あれこれ質問攻めにされた陽歌は、夕食の席でもなかなか肝心の事を切り出すことができなかった。
拓巳が動いたのはそんなときだった。
「俺、陽歌の子どもの頃の事とか、あんまり知らないんです。写真とかあったら見せてもらえませんか? 昔の話も聞きたいですし…」
ニッコリと営業スマイルで伯母を悩殺する拓巳。
陽歌は呆れていたが、伯母は頬を染めて納戸へ飛んでいった。
暫くすると陽歌のアルバムと一緒に子どもの頃に描いた絵や手紙などを出してきた。