【長編】ホタルの住む森
「彼女は本当に陽歌のことを大切に思っていてくれたんだな」
拓巳の言葉に溢れてくる涙が止まらなかった。
あの時陽歌は世界で一番自分を不幸だと思っていた。
愛してくれる両親もなく、一人ぼっちになったと思っていた。
だけどそうじゃなかった。
散らばる写真に写る病院のスタッフや友達。
あの頃支えてくれたのに気付かなかった人達の優しさを改めて思い出した。
陽歌を愛し、護ってくれる人はこんなにもたくさんいた。
今も顔を上げれば伯母も拓巳も、陽歌を心配してくれている。
そう思うと心が温かくなり、どこからか茜の声が心地良く響いてきた。
――ほらね。辛いことがあったからこそ、幸せに気付くことができたでしょう? 悲しみも、苦しみも、私との出逢いも…全てが陽歌ちゃんが幸せになる為の必然だったのよ。
心の奥底で、茜が満開の桜のように美しく微笑んだのを感じた。