【長編】ホタルの住む森

茜の写真を握り締め涙を流し続ける陽歌を伯母は悲しそうに見ていた。

「思い出したのね。彼女の事…」

そう言うと、陽歌に告げることのなかった茜と交わした約束を話してくれた。

「4月5日、彼女が最後に陽歌に会った日、帰り際に私に一つの提案をしたの。自分が死んだら角膜を提供する代わりに、陽歌が約束を忘れないように18歳の誕生日に預けた手紙を渡して、必ず約束を果たして欲しいと言われたのよ。双子のお姉さんに全て頼んでおくって言っていたわ」

伯母は茜から預かっていたという、少し色あせた桜色の封筒を渡した。

その色に陽歌はあの日茜が桜の枝をくれた事を思い出した。

「きっと自分の寿命を感じていたのね。角膜移植の際に彼女のお姉さんが教えてくれたのよ。もし無事に出産できても、そんなに長くは生きられなかったそうよ」

胸が鷲づかみにされたように痛んだ。


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