【長編】ホタルの住む森
「茜。桜は散るために咲くんじゃないんだよ。
精一杯咲いて、愛して愛されて、時が満ちた時に散るんだ。
茜はまだ、愛することも愛される事も十分だとは思えないよ」
……っ! 息が止まるかと思った…。
晃の言葉が心に染みた。
「愛しているよ茜…。
君が望むなら今この場で君と共に死を選んでもかまわない。
君が望む道を共に歩むよ。
僕は君を手放すつもりはないからね」
そう言って静かに天を仰ぐように見る。
つられて私も晃の視線の先を追った。
崖の中腹から風に舞い上げられた淡い桜の花びらが、雪のようにハラハラと降ってきて私たちの髪に肩にと降り積もった。
その幻想的な風景に暫し心を奪われていた私は、晃の言葉で現実に引き戻される。
晃は空を見たまま静かに言った。
「別れる事は許さない。
君が僕の愛を最後の一欠片(ひとかけら)まで受け入れるまで。
それが君へのバツゲームだ」
言葉が出ない。
余りにも晃の気持ちが真っ直ぐで…。
その瞳が余りにも真剣で…。