【長編】ホタルの住む森
「おかしな話だよな。ついこの間まで、お前は絶対に俺に惚れると思ってた。いつか絶対に振り向かせると思っていたよ。昨日はその反動でお前に酷い事したけど、それでも、今日こうしてお前を支えていられるのは運命だと思ってた」
「……思ってた?」
「そう、思ってた。さっきお前が『茜さんが体を乗っ取ろうとしているんじゃないかと思った』って言うのを聞くまでは」
「……どういう意味?」
「彼女はお前の体を乗っ取ろうとしたんじゃない。彼女はずっと『陽歌』の中で眠っていたんだ。
お前は角膜移植の手術をした時、茜さんの一生を夢に見て一緒に体感した。だが目覚めたときそれは茜さんの意識と一緒に記憶の奥に封印された。約束はその時、一緒に潜在意識の中に閉じ込められて記憶から消えたんだと思う。再び封印が解かれるまで…。
陽歌、茜さんがお前を乗っ取るんじゃない。二人はあの時から一人の人間として生きてきたんだ。…お前自身が茜さんなんだよ」
拓巳の説明が解らない訳ではなかったが、自分が陽歌であり、同時に茜でもあるという事実は、簡単に受け入れ難かった。
自分が茜ならば、晃が愛しているのは自分だという事になる。
だがそれは、決して陽歌自身を愛してくれているわけではないのだ。