【長編】ホタルの住む森
「彼女にキスをしてしまったのも、君に重ねてしまうのも彼女が君の記憶を持っているからだ。
確かに陽歌さんに婚約者がいると知ったとき、僕は動揺した。あの時僕の心を占めていたのは陽歌さんの婚約者に対する嫉妬だったのは事実だ。
僕は彼女と一緒に君が還って来たと信じたかったんだ。…彼女は君じゃないのにね。
陽歌さんには彼女の人生があって恋人もいる。もうすぐ幸せな結婚もするだろう。…幸せになって欲しいと思うよ。君の記憶を持った女性が他の男のものになると思うと胸が痛むけどね」
晃は瞳を閉じ深く呼吸をした。
暫くそれを繰り返し、乱れる心がゆっくりと治まるのを待ってから花嫁に微笑んだ。
「…ねぇ茜。君は僕に再婚を望んだけれど、僕には君との幸せな思い出があればそれでいいんだ。僕が恋をするのも、もう一度結婚するも君の魂とだけ。どんな形で生まれ変ってきても君を愛する自信はあるよ。でもやっぱり…人間であってくれるのが望ましいね。できれば女であって欲しいなぁ。男とは結婚できないからね」
クスクスと笑いながら引き出しの中からルビーの指輪を取り出し
「君の魂ならどんな形であっても一生傍に置いて愛でるけどね」
と一旦照明にかざしてからそれを写真の前に置いた。