【長編】ホタルの住む森
「現世ではもう結ばれることはないだろうけど、あの世で再会したら真っ先にプロポーズするよ。もう一度そのドレスを着てくれるよね?」
花嫁は何も答えず、ただ幸せな笑顔で晃を見つめている。
星の無い夜は独りの寂しさが身に沁みて温もりが恋しくなる。
腕に抱くことの叶わない花嫁を見つめながら、晃は温もりを求めるように腕を組んだ。
「父さん、何を一人でブツブツ言ってんだよ。…不気味だぞ」
突然声を掛けられ振り返ると、いつの間にか開け放たれた寝室のドアに暁が寄り掛かっていた。
「暁…いつの間に?」
「寝室の外まで声が聞こえてたから魘(うな)されているのかと思ったんだよ。心配して様子を見てやったんだ、優しい息子に感謝してくれよな」
肩をすくめ可愛げのない心配の仕方をする暁に、クスッと微笑んで一人掛けのソファーに座った。
暁も向かい合う形で設置された二人掛けのソファーの中央に身を沈めるようにして深く座った。
暁が晃の部屋に入ったのは数年ぶりだ。
珍しく何か話したそうな素振りなので視線で促すと、暁は浅く座りなおした。膝に肘をついて両手を組むと、その上に顎のせる。
暫く晃の顔をじっと見つめていたが、その視線を母親の写真に移してから深い溜息をついた。