【長編】ホタルの住む森

「父さん、また母さんの写真に話し掛けていたんだろ? …いつまでそうやって母さんに縛られているつもり? 父さんはまだ若いんだぜ。俺は父さんが再婚を考えるならいつでも祝福するよ。だからさ、そろそろ幸せになれよ」

「なっ…何をいきなり?」

「俺さ、昔から母さんを愛している父さんが好きだったよ。一人の女性をこんなに深く愛して、共に過ごした時間の何倍もの時間を独りで生きるなんて、父さんの愛情の深さには敬服するよ。そんな風にたった一人の女性を愛せるなんて羨ましいと思うし、とても凄いと思う。父さんを見ていると自分の気持ちを誤魔化して逃げてばかりの自分が嫌になってくるよ」

暁が素直に父親を好きだと言ったのは小学校低学年の頃が最後だった様に思う。

最近は余り自分から話したがらなかったのに、突然照れもせず真顔で尊敬の念を語りだした事に晃は戸惑った。

しかも一度として母親が欲しいと言わなかった暁が、初めて晃に再婚を勧めたのだ。

想像さえしなかった事に、晃は唖然として言葉を失ってしまった。


< 380 / 441 >

この作品をシェア

pagetop