【長編】ホタルの住む森

「んな驚いた顔しなくたっていいだろ? 俺にだって一応父親を尊敬する気持ちくらいあるんだぜ。…まぁ、普段は何かにつけて弄られるから うぜぇって思うことのほうが多いけどな。
でも本当は感謝しているんだぜ。二十歳(はたち)そこそこで母さんを亡くして男手一つで俺を育てたんだ。しかも医者になる勉強も続けながら生活も支えて…。それは並大抵の努力じゃなかったと思う。
でも父さんは大変な素振りは全然見せず、俺の前ではいつも笑っていたよな。俺が寂しがらないように母さんの分も愛してくれているのをいつも感じていたよ。だから俺は母さんがいなくても寂しいと思ったことは無かった。
でもいつも母さんに語りかけている父さんを見て幼心に思っていた。父さんは寂しいんだろうなって」

暁は一旦言葉を切り、晃の顔を覗き込むように見た。

心を見透かすような目に、晃は動揺を悟られまいと表情を固くして身構えた。

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