【長編】ホタルの住む森

「…父さんは俺がいたから母さんの後を追わなかったんだろ? 随分前に右京父さんがそんな様な事をチラッと言っていたのを聞いた事があるよ。
これまで父さんは俺の為に生きてきた。だけどあと数年もすれば俺だって自立していくんだぜ。その時父さんは何を支えにして生きていくんだ? 父さんが一生独りぼっちで寂しく年老いていくのを母さんは望んでいたのか?」

「…いや…茜は…僕が幸せになることを祈っていたよ」

「そうだろう? 母さんと再会する事だけを望みながら生きるなんて、そんな散る為だけに咲く花のような哀しい生き方を母さんは望んでいないだろ?
新しい幸せを見つけて陽だまりの中で生きるべきなんだよ。母さんに遠慮する必要なんて無い。生きている人間は亡くなった人の悲しみを乗り越えて、それでも前へ進まなきゃいけない。それなのに父さんは母さんに心を囚われたまま生き続けている。そんなのは母さんが望んだ事じゃないだろ?」

「…囚われているつもりはない。遠慮しているわけでもないよ。ただ、今まで茜以外の女性に興味が無かっただけだ」


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