【長編】ホタルの住む森
陽歌の乗ったタクシーが診療所の前に到着したのは日付けが変わった直後だった。
車の気配に気付いた晃が、呼び鈴の鳴る前に自宅のドアを開ける。
ここへ来るまで緊張続きだった陽歌は、目の前でタイミング良くドアが開いたことに心臓が跳ね上がるほど驚いた。
込み上げる感情が大きすぎて、どちらも言葉を発することができなかった。
青白い月の光が時を止める中、二人は静かに見詰め合っていた。
晃が手を差し伸べると、陽歌はその胸に飛び込んだ。
心臓の音が大きく響くのを感じながら、しっかりと抱き合った。
鼓動が一つになる。
想いが一つになる。
ただ、傍にいたい…
ただ、傍にいて欲しい…
愛しいと思う気持ちが溢れ出し止められない。
出逢ってからの時間とか、
互いをどれだけ知っているかとか
そんな事は関係なかった。
理屈ではなく心が求めていた。