【長編】ホタルの住む森
「陽歌さん…僕は…君に恋をしてしまったらしい。この年になってもう一度誰かを好きになるなんて思ってもみなかった。しかも出逢ったばかりなのに…。こんな風に思うなんて信じてもらえるだろうか?」
「信じます。私も…ずっと先生が好きでした。何年もこうしてあなたと逢える日を夢に見てきました。こんな風に思うなんて信じてもらえますか?」
「…ああ、信じるよ」
「…茜さんが…私をここへ…晃先生の元へ導いてくれたんです」
「茜はきっといつまでも独りでいる僕を心配して君を呼んだんだね。だとしたら僕が君に惹かれるのは必然だったのかもしれない」
「…私との出逢いが…必然?」
『必然』という言葉に、陽歌は何故か心が騒いだ。
何か大切なことを忘れているような…。
何かを見過ごしているような…。
つい最近も同じような感情が込み上げてきたことがあった。
いつだったろうかと陽歌はもどかしい気持ちで記憶を辿った。
「梶さんにも感謝しなくてはね。彼が君の婚約者を名乗らなければ、僕は自分の気持ちを認めることが出来なかっただろうから」
拓巳の名を聞いた瞬間、陽歌はハッとした。
脳裏に拓巳の台詞がリプレイされる。
『苦しみを人生における必然だと言い切り、自分を幸せだと言える彼女って…本当に凄い人だと思う』
『必然』という言葉が何度も浮かんでは消えていった。
その時、突然目の前がユラリと歪み、景色が変わった。