【長編】ホタルの住む森
陽歌は晃の腕に抱かれ幸せな笑みを浮かべ眠っている。
その表情に皆の幸せを願う、茜の微笑が重なった。
儚い命にささやかな幸せを求めた、哀しいほど優しい女性(ひと)。
神がこの世に存在するのならば…
どうか彼女をこのまま逝かせないで欲しい。
どうか、彼女を還して欲しい。
そう、皆で祈らずにはいられなかった。
どうしてもその場を動く気持ちになれず、リビングのあちこちでそれぞれが落ち着く場所に座り込み、誰からともなく、ポツリポツリと茜の思い出を語り始めた。
懐かしい日々は尽きる事無く夜通し語られてゆく。
優しい気持ちで満たされた、幸せな家族の時間が穏やかに流れていった。
茜の愛した幸せな空間がリビングを包み込む。
それは夜の闇が遠のき、やがて東の空が徐々に染まり、茜色のベールで包まれるまで続いた。
天と地の境に亀裂が入り、徐々に広がる光の矢が空を切り裂いていく。
新しい朝が明ける。
陽歌と晃の新しい一日を祝福するように、太陽が茜色の空を黄金に染めていった。