【長編】ホタルの住む森
「茜さん、行かないでっ! せっかく晃さんに会えたのに…。やっと暁君と暮らせるのに、どうして逝っちゃうの?」
声が届いたのか気配を感じたのか、茜が突然ピタリと足を止め、ゆっくりと振り返った。
眼を大きく見開いて「何故?」と唇が動く。
陽歌がここにいることが信じられない様子だった。
『何故ここに…? ついて来てはいけないわ。あなたまで消えてしまう』
「やっぱり茜さん、本当に私の中から消えるつもりだったのね。そんなの駄目! イヤよ。どこへも行かないで。逝っちゃダメ。お願い」
茜はその場にへたり込み泣きじゃくる陽歌に近づくと、頬にそっと触れ涙を拭った。
あの頃のままに優しい手を、陽歌は思わず握り締めた。
『陽歌ちゃん、私の願いを叶えてくれてありがとう』
「…茜さん…」
『あなたは私を家族に会わせてくれて、想いを伝えてくれた。もう思い残すことは無いわ』
「どうして? やっと還ってこれたのよ。大好きな人達と一緒に暮らせるのよ。ずっと待っていたんでしょう?」
『私は晃と生きたかった。暁を育てて三人で暮らしたかった。
…でもね、既にこの世の者ではない私には、それは叶えられない望みなのよ。でもこれからはあなたが私の瞳で家族を見つめ、愛していってくれる。だから私はとても幸せよ。何も思い残すことは無いわ。これで永遠に眠りにつくことが出来る』
「そんな! 眠るなんてダメよ。何度でも叩き起こしちゃうんだから。ゆっくりなんて寝かせてあげないんだからっ! だからっ…お願い消えないで。私と一緒に生きていこうよ」
茜は宥めるように優しく陽歌の頬を撫で、横に首を振った。