【長編】ホタルの住む森

今日も検査を終えて、笹の葉の緑が鮮やかに風に揺れるのを眺めながら、晃と過ごした思い出の扉を開き、静かに幸せな時を過ごしていた。

二度とは会う事も許されないけれど、せめて思い出の中だけでも彼と寄り添う時間が幸せだった。

サラサラと笹の鳴る音と微かに竹が擦れる心地良い音が心を凪いでくれる。

静かに流れる時間に心が解放されていく。

瞳を閉じて、風と大地の息吹に身を任せると、このまま時の狭間に永遠に私の魂を閉じ込めてしまいたいと願ってしまう。

そう…

苦しみからも哀しみからも解き放たれて…。

晃…あなたとの幸せな夢だけを抱きしめて、ここでこのまま永遠に眠りたい…。

意識がぼんやりと遠のきかけた時、まるで私を現実に引き戻すように携帯が蒼(あおい)からの着信を告げた。

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