【長編】ホタルの住む森
『もしもし、茜?』
「蒼?どうしたの?」
『あのね、突然なんだけど今夜ホタルを見に行こうって事になったの』
「ホタル?」
『そう、右京ってホタルを見たことがないんですって。
だから森の入口のホタルの小道へ案内してあげようと思って』
「ああ…そういうこと。
二人で行けばいいのに」
『茜、今年はまだホタル見ていないんでしょう?
だったら一緒に行かない?』
今年はまだ…。
私に来年はたぶんもう無い。
蒼と一緒に行くのもこれが最後になるだろう。
「そうね…行くわ。
でもお邪魔じゃないの?」
『バカね。余計な気を回さないでよ。
茜はいつもの電車で帰って来るんでしょう?
だったら帰りに少し回り道になるけど、ホタルの小道へ来てくれない?
あたしと右京も茜の電車の時間に合わせてそこに着くようにして行くから』
「うん、わかった。じゃあ後でね」
私は携帯を閉じるともう一度瞳を閉じて笹の葉の子守唄に身を委ねた。