【長編】ホタルの住む森
「茜?どうしたの、ボウッっとして」
晃が心配そうに覗き込む。
ぼんやりと考え事をしていた私は、ハッとして顔を上げた。
「あっ…ごめん。なんだっけ?」
「午前中のうちに出かけないか?
午後からは買い物に行きたいって言っていただろう?」
「うん、そうね。二人で暮らすにはまだ足りないものもあるし…」
「何が足りないかなあ?
食器は一通りあるし、家電だって、家具だって、今まで僕が使っていたものをそのまま使えば良いだろう?
クローゼットだってたくさん空いているんだから」
もともと晃のおじいさんが暮らしていたこの家は、晃が独りで住むには広すぎるほどで、使っていない部屋がほとんどだ。
かつておじいさんが療養所をしていたこともあり、部屋数もあるし、食器や家具も普通の家と比べると、随分多いと思う。
だから、私が一緒に暮らすからといって、すぐに何かを用意する必要も無いのだけど…。