【長編】ホタルの住む森
「きみ、泣いているの?」
晃は病院の中庭の紫陽花の前で大きな紫色の傘に隠れるようにして、座り込んでいる少女に声をかけた。
まるで大きな紫陽花みたいだと晃は思った。
ピンク色のパジャマを着た少女、入院患者らしい。年は6歳くらいだろうか
少女は驚いたように降り返り、涙を拭うと泣いてないと赤い目をして笑ってみせた。
「だれも遊んでくれないから、つまらなくて…」
と言い訳するように少女は笑った。
晃は少女の手を取って、僕も退屈していたんだと告げた。
「いっしょに遊ぼうか?」
晃の問いかけに嬉しそうに笑う少女。
一瞬、紫陽花の花に弾ける雨の粒が、彼女の微笑みに反射して輝いたように見えた。