【長編】ホタルの住む森

自分に向けられる賞賛とも好奇とも取られる視線から逃れたくて、できるだけ病棟から離れようと、紫陽花に誘われるように雨の中にフラリと散歩に出た。

普段だったら考えられない行動だったが、この日はまるで何かに惹かれるように紫陽花に触れたくなったのだ。


そして見つけた紫陽花の花のような少女。

何となく離れたくなくて、彼女に傘を差し出した。


病院の中庭は午後からの雨で夕刻の気配をいつもより早く連れてきている。

心細さを隠すように、紫陽花の陰に身を寄せると二人で一つの傘に入った。

色とりどりの紫陽花が銀の粒をはじき色を鮮やかに染める中、大きな傘は二人をすっぽりとつつみ、紫陽花の陰に押し隠してしまった。

「かくれんぼしているみたいだね?」
と晃が言うと
「かくれてるんだもん」
と少女は答えた。

「なぜ?」と訊いてみても、少女は悲しそうに微笑むだけだった。

「ここは雨がかかるよ。濡れると風邪をひくから中に入ろう。ほら、小児病棟で七夕のイベントをやっていたよ。君、入院してるんだろ?」

せめて院内に入らないと…

そう言い掛けた晃は息を飲んだ。


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