【長編】ホタルの住む森
自分はまだ、たった9才の子供で、彼女の病気を治してやることは出来ない。
これまでは当たり前だと思ってきたこと。
だけど、今日ほど自分の手の小ささが悔しかった事はなかった。
ぎゅっと拳を握り締め、唇を噛んだ。
「やってみないと分からないじゃないか」
気が付くと晃は口走っていた。
キッと顔を上げると少女を真っ直ぐに見据える。
「僕が治してあげるよ。
きっとお医者さんになって君の病気を治してあげる。
だから諦めないで。生きる努力をして」
少女は大きく目を見開いた。
「生きる努力をしなくちゃ、病気に負けちゃうよ。
治したいと自分が思わないと病気には勝てないって、僕のお父さんがいつも言っているよ」
見開かれた瞳から硝子の様に透き通った涙がぽろぽろと零れ落ちた。
脆く繊細で、純粋に透明な…
それは少女の心のようだと思った。