【長編】ホタルの住む森
「大丈夫。君は生きられる。
先生はこのままだったらって言ったんだろう?
じゃあ、このままで無ければいいんだよ。君が生きたいと願って、生きる努力をするんだ。いいね?」
肩を震わせ、声を殺して、晃にすがりついて、静かに涙を流した。
小さな細い体だった。
この子は小さな体と心でどれだけの運命を背負っているのだろう。
「諦めちゃダメだ。絶対に約束して。希望を失わないで」
声を出すこともせず、静かに泣く少女を晃はそっと抱きしめた。
胸の中で小さく頷くのを感じる。
「きっと、治してあげるよ…。僕は医者になる」
晃は強く心に誓った。
僕は君の為に医者になる。
いつかきっと、君を救ってみせる。
そう強く願ったとき、小児病棟の子どもたちを思い出した。
それまで重荷に感じていた事が、まるで嘘のように消えて行った。
代わりに心の奥底からものすごいエネルギーが沸きあがってくるのを感じる。
彼女のように苦しんでいる沢山の人を救いたい。
一日も早く医者になって、一人でも多くの苦しむ人を救いたい。
七夕の願いが叶うなら、僕の願いはただ、ひとつだ。
――いつかきっと…僕が君を助ける。
雨は銀色の糸をひき、静かに紫陽花を濡らし続ける。
大きな傘に隠れた二人は静かに雨音に身を委ねていた。
やがて少女の涙が枯れるまで…。