世界でふたりだけの…
お父さん
少し遅めの朝食を食べようと、階段を降りる。
ちょうど降り切ったところで、優羅にばったり会った。

「おはよう澪。これから朝食?さっき様子が変だって母さんが心配してたよ。」

優しい笑顔。
もう“母さん”と何気なく呼べるところが、さすが優羅。

「そう・・・。でも大丈夫。少し嫌な夢を見ただけだから。」

嘘のようで本当の話。
あれは夢だった気がしてならない。
体、浮いてたし。

「恐い夢か?なんなら一緒に寝てあげるよ?」

こんなことをさらっと言ってしまう優羅だから、すぐに馴染めたのかも。

「ある意味恐かったけど、大丈夫だから一緒に寝なくていいです。」

照れ隠しでちょっとぶっきらぼうにそう言って、キッチンに向かった。

「あら澪、そろそろ起きてくると思って、朝食用意しておいたから食べてね。」

母にそう言われ、机を見ると白いご飯、お味噌汁、納豆、おしんこ、たくあん、焼き魚と日本の代表的とも言える朝食が並んでいる。
母は和食通だったりする。

「いただきます。」

さっそく椅子に座り、食べ始める。
深翠さんには劣るけど、母の料理は美味しい。
それを味わいながら食べる。
ちゃんと消化され、排出されるこの体がなんだか不思議に思えた。

「澪ちゃん、今日は僕とお母さんの結婚記念日だから、みんなでどこかに出かけないかい?」

優さんがリビングのソファから立ち上がり、母の隣に立って言った。

「俺は2人で行けばいいって言ったんだけどね。」

優羅が苦笑しながら私の耳元で囁いた。
でもその声は2人にも聞こえていたようだ。

「せっかくなんだから、みんなで行った方が楽しいでしょ?」

母が優さんと顔を見合わせ、幸せそうに笑った。
それを見た私は胸が温かくなるのを感じた。

「2人で行ってきたら?私は行かなきゃいけない所があるし、2人の邪魔もしたくないから。」

もくもくとご飯を食べながら言う。
優羅は隣の椅子に座って頷き、当の2人は少し寂しそうな顔をした。

「邪魔だなんて・・・。澪ちゃん、そんなことあるわけないよ。」

優さんが私に子犬のような目を向けて言う。
本当に大人なのかと疑いたくなる目で。





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