世界でふたりだけの…


学校で紫乃達と別れて、深翠さんのお店に向かう。

「本返して、お礼言って、それから・・・。」

その先のことを考えるとドキドキする。
もしかしたらって思うと、複雑な気持ちになった。

そして商店街を抜け、細い路地を通る。
見えてくる一軒家。
無気味に見えた壁の蔦も、今日はロマネスクと同調して素敵に見えた。

「こんにちは。」

小声で言いながらドアを開ける。
この前と同じ、静かな店内に居心地の良さを感じた。

「お、いらっしゃい。来ましたね。」

深翠さんがカウンターからにっこり笑って迎えてくれる。
今日も黒いエプロンを着けている。

「こんにちは。この前はありがとうございました。」

私は深深とお辞儀をしてから、カウンターに本を置いた。

「どういたしまして。で、どうだった?」

「私・・・この本のおかげで、変われた気がします。ほんとに今の私に必要なものでした。」

言いながら少し泣きそうになって、必死に堪えた。
思い出すと辛かったり、嬉しかったりでちょっと情緒不安定になる。

「それは良かった。澪ちゃん、僕に言いたいことあるでしょ。」

図星を突かれて、一瞬びくっとした。

「はい・・・。闇の本に出てきた深樹さんって人、深翠さんのお知り合いですか・・・?それと、もしかして深翠さんは・・・私と同じ・・・?」

震える手を抑えながら、それでも深翠さんの目をまっすぐ見つめて言った。

「深樹はね、僕の兄なんだ。兄さんは本当に優しくて、僕のこともずっと後悔してた。」

深翠さんは自分の着ている黒いエプロン裾を掴んで、呟くように話し出した。


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