世界でふたりだけの…
「僕は20歳の時に病気になったんだ。原因も、治療法も分からない。病名も・・・無い、今までに見たことがない病気。」
震えているのが手だけじゃなく、体全体になっていった。
寂しそうな目で話す深翠さんが、すごく悲しく見える。
「少しずつ体中の骨が溶け出して、僕の体は・・・」
「深翠さん!!」
私はとっさに話を遮った。
これ以上、話させたくなかったから。
深翠さんの辛さが伝わってきて、涙が止まらない。
「ごめんね。話を戻そう。兄さんはそんな僕を木崎君のところに連れて行ったんだ。木崎君は兄さんの友達で、同じ研究をしている仲間でもあった。」
深翠さんは私の涙を指で拭いながら、話を続けた。
「2人が行っていた研究が完成して、それを実行するための人材を探していた。兄さんは、僕を生かすためにその人材に僕を提供したんだ。」
いくら拭っても涙は止まらなくて、深翠さんはハンカチを私の目に当ててくれた。
「そして僕の体は君が言った通り、アンドロイドになった。手術は成功して、僕は病気に勝てたと思った。でも、リスクがない訳でもなくて。」
それまで寂しそうな目だったのが、急に穏やかになった。
どうしてなのか、私には分からない。
「僕はこのまま歳をとることもなく、普通の人間の倍生きることになった。それでも生きていてくれるならって、兄さんは言っていたけど、僕はそうは思わなかった。母さんや父さんは怒って、僕達を勘当した・・・。それに、歳をとらない僕を変だと思わない人はいない。だから、僕は兄さんに言ったんだ。“僕を壊して”って。」
すごく、辛い話をしてるはずなのに、深翠さんは微笑んでいる。
私には無理しているように見えて、無意識にカウンター越しに深翠さんを抱きしめていた。