世界でふたりだけの…
私の言葉を聞いて深翠さんは驚いた顔をした。
でもすぐ笑顔に変わった。

「あはは。かぶっちゃったか。でも、この体になっても兄弟だってことには変わりないんだな・・・。」

すごく嬉しそうに笑う深翠さんに、私の鼓動は早くなっていた。
脈の音が、自分でも分かるくらいに鳴ってる。

「このエプロンも、兄さんがくれたものなんだ。このお店を開く時に、お守り代わりにって。」

大事そうにエプロンを見つめる深翠さん。
私もつられて笑顔になる。
深翠さんが幸せそうだと、私も嬉しくなる。
同じアンドロイドだから・・・?

「澪ちゃん、僕は君がいてくれたから今まで生きてこれたんだ。僕も独りじゃないって思えたし、この本を君に渡さなきゃいけなかったからね。」

そう言ってカウンターから出てきた深翠さんは、そっと私を包むように抱きしめた。

「ありがとう・・・。澪ちゃん。」

耳元で囁かれる。
途端に耳が熱くなって、自分の顔が一気に赤くなるのが分かった。

「わ、私の方こそ!ありがとうございました・・・!」

深翠さんはくすくす笑って、しばらくの間離してくれなかった。
その短いようで長い時間、私の鼓動が聞こえるんじゃないかと心配でならなかった。

「ねえ澪ちゃん。アンドロイドでも、恋はできるよね。」

深翠さんの言葉が、遠くから聞こえた気がした。



お店の帰り道、頭がぼーっとしてうまく歩けない。
私、壊れたかな。
深翠さんの言葉が耳に焼き付いて離れない。
恋なんてよく分からないって思ったけど、私きっと恋してるんだろうな・・・。
黒いエプロンを着た、永遠の20歳の男性に。
私と同じ、アンドロイド。





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