世界でふたりだけの…


「すみません・・・。どうしてもって聞かなくて。」

放課後、学校の帰りに直接深翠さんのお店に来た。
昨日深翠さんから、お店を手伝ってほしいと言われたのだ。
手伝いと言っても、店内の掃除と倉庫の整理などが基本。
そして今日さっそく、紫乃たちがお店に来ると言い出した。

「全然いいよ。お店としては助かるし、僕としては澪ちゃんの友達に会えるのは嬉しいし。」

深翠さんに紫乃たちのことを伝えると、笑顔でそう返してくれた。
未だに慣れなくて、笑顔を見るたびに鼓動が早くなって、顔が緩んでしまう。
こんなところを紫乃たちに見られるのが、とてつもなく恥ずかしい。


「澪ちゃんと僕って貴重なんだよね。」

突然深翠さんが言った。
ちょうど私が本棚の整理をしている時。

「たったふたりだけのアンドロイド。世界中探しても、僕と澪ちゃんしかいない。すごいよね。」

そう言いながら深翠さんが近づいてきて、顔を寄せてくる。
突然の急接近に心臓が止まりそうになった。
鼓動がばくばくで、頭がぐるぐるになって、気絶しそう…。

「こんにちはー!澪いますかー?」

あと数センチで唇同士が当たりそうな時、勢い良くドアが開く音と、紫乃の明るく元気な声が聞こえた。

深翠さんは速やかに私から離れ、紫乃達を迎え入れた。
私はしばらくその場に突っ立ったまま、動けずにいた。
顔が熱くて、なかなかみんなの所へ出ていけれない。
紫乃はそれを知ってか知らずか、“澪―?”と何度も店内から呼びかけてきた。



この先何十年も、不安を抱えながら人より長く生きていく。
でも独りじゃないから、きっと大丈夫。
嬉しかったら笑って、悲しければ泣いて。
完全な人間じゃないけど、誰かを愛することも、思いやることもできる。
不器用でも生きていくと決めた。
自分と、大切な人達と一緒に。


END.
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